脊髄腫瘍
脊髄、神経根、髄膜より生じた腫瘍性病変の総称です。発生頻度は人口10万人あたり1〜2人で、脳腫瘍の1/10〜1/5程度です。成人が約90%を占め、40〜60歳代に好発します。胸椎が最も多く約半数を占め、ついで頚椎、腰椎、仙椎の順です。発生部位から硬膜外腫瘍と硬膜内腫瘍に分類され、硬膜内腫瘍は脊髄そのものから発生する髄内腫瘍と硬膜内髄外腫瘍に分類されます。
硬膜外腫瘍は転移性腫瘍の頻度が高く、原発巣は肺癌が最も多く、乳がん、前立腺癌、消化器がんなどが続きます。多くは椎体や椎弓根に転移し、骨構造を破壊して脊髄を圧迫します。臨床経過が短く、疼痛を主徴とします。その他には、悪性としてリンパ腫、骨髄腫、脊索腫、骨肉腫などが、良性として骨軟骨腫、類骨骨腫、骨巨細胞腫、血管腫などがあります。
硬膜内髄外腫瘍は神経鞘腫と髄膜腫に代表されます。
神経鞘腫は全脊髄腫瘍の20〜45%前後を占め最も多くみられます。脊髄神経鞘より発生し、90%以上が脊髄神経後根より発生します。しばしば椎間孔を通って進行し、硬膜内外に砂時計状(鉄亜鈴型)に発育します。通常良性で被膜を有し完全摘出できます。
髄膜腫は中高年に多く女性に好発し、発生部位は80%以上が胸椎レベルです。胸椎では大部分が背外側に、頚椎では脊柱管前半部に多くみられます。良性で被膜を有しますが、硬膜付着部が残された場合には再発をきたす可能性があります。髄内腫瘍は、神経膠腫、特に上衣腫と星細胞腫が大部分を占め、血管芽腫、海綿状血管腫、髄内神経鞘腫などが続きます。上衣腫は髄内腫瘍全体の約50%を占め、最も高頻度で、40歳前後に多く認められます。脊髄中心管の上衣細胞から発生しますが、20〜30%は終糸から発生し髄外に進展します。星細胞腫は髄内腫瘍の約30%を占め、男性にやや多く、上衣腫と比較すると発症年齢は若い傾向にあり、頸胸髄に多く発生します。多くは悪性度は低いものの脊髄との境界が不鮮明です。
症候は、腫瘍の発生部位や原因疾患により異なります。一般に転移性腫瘍を除くと良性腫瘍が多いため、臨床症状が数ヶ月から数年の経過で推移する場合が多いです。初発症状は感覚障害のことが多く、局所の疼痛や神経根支配に沿った痛みを伴います。腫瘍の増大に伴って運動機能障害を認めるようになり、膀胱直腸障害や自律神経障害など脊髄横断症状を呈します。特に、感覚障害、運動障害の障害部位やパターンは、脊髄高位診断のみならず脊髄横断面での腫瘍局在の診断の手掛かりになります。
単純X線撮影、CT、MRIが行われ、骨変化、石灰化、腫瘍局在、脊髄圧迫所見を観察します。MRIによりミエログラフィーの意義は低下しています。血管豊富な腫瘍では血管撮影を行い、術前に栄養血管を塞栓します。
脊髄腫瘍の治療の基本的な考え方は、腫瘍全摘出と脊椎再建(腫瘍浸潤によって破壊された脊椎、あるいは腫瘍摘出のために切除した脊椎)です。硬膜外腫瘍では、一度完全麻痺になると減圧手術を行なっても回復は少ないですが、硬膜内髄外腫瘍では腫瘍全摘出により良好な機能回復が期待できます。髄内腫瘍では脊髄との境界が明瞭なものは全摘出が可能ですが、境界が不明瞭な場合は部分摘出になるので、組織像を確認して放射線療法や化学療法を併用します。