アルツハイマー型認知症
発症機序としては、アミロイドβ蛋白の脳内沈着が契機になり、タウ蛋白の異常リン酸化による神経原線維変化の形成から神経細胞死に至る過程が考えられています。これらの変化は大脳皮質や海馬を中心にみられます。主要な症状は記憶障害で、数年の後に、失語、失行、失認の大脳皮質症状と、物事を計画、組織化し、順序立てて遂行するという実行機能障害が加わってきます。
これらの症状により、社会生活や日常生活の遂行が障害され認知症を呈することになります。また周辺症状として行動・心理症状が出現します。経過が進行するとミオクローヌスや痙攣がみられます。最終的には言葉の理解や発語ができなくなって、寝たきり状態になります。
ご家族や介護者にとっては、中核症状に加えて行動・心理症状への対応が精神的負担になります。初期には病識があり、不安、鬱状態となり、時に興奮や暴力、自殺企図がみられます。物盗られ妄想や嫉妬妄想も認められます。病前性格の先鋭化、几帳面さが消えて部屋を片付けなくなるなどの性格変化がみられます。
進行すると、過食、社会的逸脱行動、性的脱抑制、まつわりつき、同じ質問を繰り返す依存性の増加がみられます。夕暮れになると目が据わって家へ帰ると言い出す夕暮れ症候群、住居を出ていこうとする常同行動や徘徊、睡眠覚醒リズム障害、介護への抵抗などもみられます。夜間せん妄、トイレ以外での失禁・排泄、便こね、暴力、破損行為や暴言、大声で叫ぶ、金切り声をあげるなど介護者に大きな負担になります。
薬物療法としては、認知機能改善のためにアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)、NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)があります。夜間せん妄・興奮・徘徊にはチアプリドやハロペリドールが、不眠にはフルニトラゼパム、オランザピンなどが用いられます。また、精神療法・心理社会的療法の普及が期待されており、行動療法は、異常行動の誘引や先立つ行動、環境因子などの発見・除去や、介護者への教育など、環境を整備し患者の残存能力を引き出す療法です。回想法は、個人やグループで昔話や物品、写真などを用いて過去の記憶を刺激する療法です。